アンノウン/ジャウム・コレット=セラ監督(2011・米独)



計画停電による映画館の休館や公開予定の延期、中止が相次ぐなど、3・11の大震災は映画の世界にも大きな影響を及ぼしたが、この作品もそのあおりを受けたひとつ。幸いにしてお蔵入りは免れたものの、邦題として当初予定されていた『身元不明』を原題どおりの『アンノウン』に変更され、公開となった。
大切なアタッシェケースを空港に置き忘れ、取りに戻る途中で交通事故に巻き込まれたリーアム・ニーソンは、四日間の昏睡の末に病院で目をさました。自分が植物学者で、バイオテクノロジーの学会のため妻とベルリンを訪れていたことを思い出し、急いで宿泊先のホテルへと向かうが、妻のジャニュアリー・ジョーンズは、彼を見知らぬ人物だと言い、夫を名乗るエイダン・クインは、パスポートだけでなく、自分と同じ記憶を有していた。逆戻りした病院で謎の男に襲われたことがきっかけとなって、主人公は秘密警察出身の探偵ブルーノ・ガンツと、タクシーの女運転手ダイアン・クルーガーの助けを借りて、不可解な事態を解き明かさんと行動を開始するが。
主人公の記憶が次々否定されていく気前の良さ(?)は、観ている側もちょっと心配になるくらいだが、終わってみれば伏線の隅々まできちんと回収されているのだから素晴らしい。原作は、日本でも数作が翻訳紹介されているゴングール賞作家のデディエ・ヴァン・コーヴラール。監督のジャウム・コレット=セラは、敬愛するというヒッチコックの乗りで、軽快なサスペンス映画に仕上げている。映画とは違うテイストがありそうな未紹介の原作も、興味をそそられる。
日本推理作家協会報2011年6月号]
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