RED(レッド)/ロベルト・シュランケ監督(2010・米)

「アイアンマン」とその続編、「ウォッチメン」、「キック・アス」等々、グラフィック・ノベルの映画化はまさに百花繚乱の賑やかさで、アメコミ門外漢の目から見ても、その相性の良さには、どこか格別のものがあるように思える。グラフィック・ノベルって何? という向きには、一昨年、柳下毅一郎さんの訳で日本にも紹介された、切り裂きジャック事件を扱ったアラン・ムーアの『フロム・ヘル』(みすず書房)を例にあげれば、お判りいただけるかもしれない(ちなみに、この作品もジョニー・デップ主演で映画化されている)。さて、今月のトップバッターもまた、そんな大人の漫画と映画の世界が幸福に出会った作品である。
現役を退き、年金生活者として田舎町でのんびり暮らす元CIAの局員が、ある日突然、武装集団から襲撃を受ける『RED』は、ウォーレン・エリスの同題のグラフィック・ノベルが原案となっている。監督は、ベルリンからニューヨークへと向かう旅客機上から6歳の少女が消失する『フライトプラン』で一躍有名になったドイツ出身のロベルト・シュヴェンケだ。お話の方だが、命を狙われたブルース・ウィリスは、かつての上司モーガン・フリーマンや、エージェント仲間だったジョン・マルコヴィッチを訪ね、どうやら昔の仕事に絡んで、自分たちの抹殺を企む者がいることに思い至る。
主人公がひそかに思いを寄せる役所の年金担当者メアリー=ルイーズ・パーカーが誘拐同然に巻き込まれていく出だしはラブコメ路線だが、やがて冷戦の時代を生き抜いた盟友やライバルたちと主人公との邂逅の物語になっていく。中でも、MI6の凄腕スナイパーだったヘレン・ミレンの登場は本作のちょっとしたハイライトで、エレガントな凄腕スナイパーがチームに加わることによって、物語に大きな花を添えている。グラフィック・ノベルの出自を彷彿とさせる画面構成も遊び心たっぷりで、破天荒な展開と合わせてタランティーノの映画を連想させたりもする。オールド・ファンとしては九十歳を軽く越えるアーネスト・ボーグナインの元気な姿が見られるのもうれしいところだ。
日本推理作家協会報2011年3月号]
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