ムーンライト・マイル/デニス・ルヘイン(角川文庫)

一九九九年の『雨に祈りを』以来だから、なんと十一年ぶり。そんなパトリック&アンジー・シリーズの新作が、いきなりの最終回だなんて。デニス・ルヘインの『ムーンライト・マイル』は、六作目にして泣いても笑ってもこれが読み収めとなるシリーズの最後の作品である。
十二年前、恵まれない家庭から誘拐された四歳の少女アマンダを取り戻したパトリックだったが、事件には裏があり、その顛末に愛するアンジーとの関係を大きく揺さぶられることになった。その後ふたりは結婚し、長女が誕生したが、今も彼の心中では当時の記憶が苦い思い出として澱んでいた。そんなある日、アマンダの伯母から思いもかけない依頼が舞い込む。少女が再び家族の前から姿を消したという。子育てで仕事を離れていた妻との久々のコンビで、パトリックはアマンダの行方を追うが。
作者がシリーズの幕引きに、社会性をも孕んだ問題作『愛しき者はすべて去りゆく』の後日談を選んだのには十分納得がいく。社会倫理と状況倫理の狭間で葛藤し、打ちのめされた主人公らにとって、『愛しき者』の因縁はいつか決着をつけねばならない大きな壁となって立ち塞がっていたからだ。もうひとつのテーマは、残酷なまでに人を置き去りにする時間の流れで、主人公は老い、時代は変わっていく現実が、シビアに浮き彫りにされていく。ロシア・マフィアという難敵との決着のつけ方にやや不満もあるが、それを免じてもいいという気にさせるアマンダというヒロインの息を呑む存在感が素晴らしい。過去作を反芻したくなること必至の幕切れに、惜しみない拍手を。
ミステリ・マガジン2011年7月号]