逃亡のガルヴェストン/ニック・ピゾラット(ハヤカワ・ミステリ)

そもそも時代の空気に敏感なミステリ叢書の老舗として鳴らしてきた〈ハヤカワ・ミステリ〉が、敢えて〈新世代作家紹介〉の看板を掲げた連続刊行の企画は、なかなかの成功を収めつつあるようだ。デイヴィッド・ゴードン(『二流小説家』)、ヨハン・テリオン(『黄昏に眠る秋』)といった新たな才能との出会いを楽しんできた読者は、第三弾となるこのニック・ピゾラットの『逃亡のガルヴェストン』でもその期待を裏切られることはない。
 医者からレントゲンの写真を見せられ、余命いくばくもないという宣告を受けたばかりの中年のギャング、ロイ。その日、ボスから命ぜられた仕事は、まるでそれに追い討ちをかけるかのようにきな臭いものだった。案の定、予期せぬ事態に見舞われた彼は、その場に居合わせた年若い娼婦のロッキーとともに追われる身の上となってしまう。間もなくロッキーの幼い妹テイファニーも加わり、奇妙な道行きとなった一行は、テキサス州のガルヴェストンにたどり着く。袋小路のような状況に陥りながらも、次第に心を通わせていく中年のギャングと娼婦。しかし、危機を察知したロイの行動が、思わぬ結果を招いてしまう。
 時と場所が明らかに異なる章が、ところどころに短く差し挟まれることから、勘のいい読者なら終章の展開を察知してしまうかもしれない。しかし、ロード小説を思わせる大らかさと、逃避行のサスペンスの折り合いは実に見事。死と生の間で葛藤する主人公の心情に、アウトローとしての生き方だけでなく、人間の弱さが滲むところが印象的だ。ルヘインの中短編を思わせる詩情も心に残る。
[ミステリマガジン2011年7月号]

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)

逃亡のガルヴェストン (ハヤカワ・ミステリ)