冒険・戦争

硝子の暗殺者/ジョー・ゴアズ(扶桑社海外文庫)

贔屓の作家の訃報に接する寂しさは、喩えようのないものだが、そんな読者の気持ちを少しでも癒してくれるものがあるとすれば、それは遺された作品だろう。本年一月に惜しまれて世を去ったジョー・ゴアズの『硝子の暗殺者』もそんな一冊だ。 ケニアの自然保護…

巨人たちの落日(上・中・下)/ケン・フォレット(ソフトバンク文庫)

第二次世界大戦を舞台にした外套と短剣の物語『針の眼』でデビューしたケン・フォレットも、いまやベテラン作家の仲間入りを果たし、近年では歴史ものの分野にその執筆活動の軸足を移している。本作に先立つ『大聖堂』とその続編では、中世のイングランドを…

遥かなる未踏峰[上下]/ジェフリー・アーチャー(新潮文庫)

ジェフリー・アーチャーの新作『遥かなる未踏峰(上・下)』である。二十世紀の初頭、北極、南極と並んで人類未踏の極地であった世界の最高峰エヴェレスト。その遥かなる頂きを目指したイギリスの国民的な英雄ジョージ・マロリーの生涯を描く物語である。 実…

猛き海狼/チャールズ・マケイン(新潮文庫)

久しぶりに血湧き肉躍る海洋冒険小説と出会った。チャールズ・マケインの『猛き海狼(上・下)』である。第二次世界大戦下、愛する祖国のために命を賭けて大海原へと乗り出していくドイツ海軍の若き士官が主人公だが、ゲルマンから眺めた英米が描かれるとい…

乱気流/ジャイルズ・フォーデン(新潮文庫)

ヨーロッパ全土に広がるナチスドイツの席巻に歯止めをかけ、第二次大戦の歴史的転換点になったと言われるノルマンディー上陸作戦。その史実を気象予測という視点から眺めたユニークなフィクションが、ジャイルズ・フォーデンの『乱気流(上・下)』である。…

卵をめぐる祖父の戦争/デイヴィッド・ベニオフ(ハヤカワ・ミステリ)

デイヴィッド・ベニオフは、脚本も書くし、そもそもは映画畑に軸足をおいているようだが、文学の才も半端ではない。秀でたストーリーテラーぶりは、すでに『25時』や『99999』でおなじみだが、新装なったポケミスの第一弾として登場した『卵をめぐる祖…

カストロ謀殺指令/デイヴィッド・L・ロビンズ(新潮文庫)

大学教授でありながら専門が歴史学の暗殺史だったことから、ルーズベルト暗殺という歴史の舞台裏に引きずり込まれてしまった前作から十六年、ラメック教授が再び登場するデイヴィッド・L・ロビンズの『カストロ謀殺指令』である。アメリカに反旗を掲げ、キ…

祖国なき男/ジェフリー・ハウスホールド(創元推理文庫)

この作品を出すための伏線だったか、と思い出したのは七年前の「追われる男」のリバイバルだ。ジェフリー・ハウスホールドの『祖国なき男』は、前作から四十三年後に書かれたその続編である。ヒトラーの暗殺に失敗し、母国のイギリスに逃れた主人公の苦難を描…

犬の力/ドン・ウィンズロウ(角川文庫)

冬の時代と言われる翻訳ミステリ界だけど、今年は近年にない豊作で、この秋も読みたい新刊に事欠かない幸せな日々だ。これも、本が売れないという、出版社にとっては究極の逆境の中にあって、日夜奮闘している編集者諸氏のお陰と、まずは今月もそっと手を合…

グラーグ57/トム・ロブ・スミス(新潮文庫)

早くも届けられたトム・ロブ・スミスの第二作『グラーグ57』。国家保安省時代のおとり捜査のエピソードで幕があくが、間もなく「チャイルド44」の後日談であることが明らかになる。忌まわしい事件から三年が過ぎ、主人公のレオはモスクワで殺人課を創設、家…

砂漠の狐を狩れ/スティーヴン・プレスフィールド(新潮文庫)

スティーヴン・プレスフィールドの『砂漠の狐を狩れ』は、二次大戦下における北アフリカ戦線の砂漠地帯を舞台にした英国軍車両部隊の物語である。語り手は戦後出版社を興し、社主となった人物で、自身の若き日を回想するという形で語られていく。まだ二十歳…