MAD探偵 七人の容疑者/ジョニー・トー&ワー・カーファイ監督(2007・香)

一昨年の東京国際映画祭で上映され、ひと握り好事家の間では評判だったジョニー・トーがワイ・カーファイと組んで合同監督した『MAD探偵 7人の容疑者』が、やっと一般公開された。過激ともいえるプロファイリング捜査で周囲を唖然とさせながらも、難事件を次々に解決。しかし、退職する署長に自らの右耳を削いで捧げた奇行により、警察を追われた元刑事のラウ・チンワンに、かつての後輩アンディ・オンから捜査への協力依頼が舞い込む。その事件は、ふたり組の刑事が容疑者を追って森に入るが、その一方は行方不明となってしまったという不可解なものだった。依頼を引き受けたラウは、刑事の片割れであるラム・カートンが多重人格であることを見抜き、執拗に彼をつけまわし始める。
 ケレン味ジョニー・トー作品のいわば定石のようなものだが、あまりにトンデモな展開に出くわし、正直唖然とした。多重人格や幽霊などを具象化する映像表現は、さすがにトーのファンでも幻惑されるに違いない。しかし、お話が進むにつれて、違和感のひとつひとつが非常に練られたもので、悪ふざけどころか冒険的な手法のひとつであることが判ってくるし、おなじみ日活アクション映画の本歌取りのサービス精神もきちんと用意されている。なんといっても型破りの主人公を演じるラウ・チンワンの個性派ぶりが光るが、元妻を演じるケリー・リンにも華がある。ふたりをめぐるエピソードの切なさが、物語の幕切れに、忘れがたい叙情と余韻を添えているのが非常に印象的だ。
日本推理作家協会報2011年4月号]
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