刑事ベラミー/クロード・シャブロル監督(2009・仏)

『刑事ベラミー』は、2010年9月に惜しまれて世を去ったクロード・シャブロル監督の遺作にあたる。妻のマリー・ビュネルに引っぱられるように、彼女の実家である夏の南フランスをバカンスで訪れた刑事のジェラール・ドパルデュー。そこに、忽然と謎の男ジャック・ガンブランが現れ、自分は殺人犯かもしれないと告白し、助けを求めてくる。狐につままれたような気分になりながらも、刑事の本能で男について調べを進めていくドパルデューだが、そこにアル中気味で、厄介者の弟コルヴィス・コルニアックが現れ、自分勝手なふるまいの限りを尽くして、夫妻の休暇を台無しにしていく。
冒頭のシーンが意味するところが、最後の最後になって観客になるほどと膝を叩かせる。謎の提出の仕方は、晩年作にふさわしくゆったりとしているが、ミステリ映画としてのカタルシスは実に見事。ベラミー夫妻のおしどり夫婦ぶりも暖かく描かれており、南仏の穏やかな空気ともに、心地よい物語世界を作り出している。
刑事としての公と私生活の出来事を対比させて、それをひとつのミステリ劇に仕立てる職人芸には惚れ惚れさせられるばかり。クイーンの『十日間の不思議』やレンデルの『ロウフィールド館の惨劇』など、ミステリの名作を好んで映画化していることからもわかるように、シャブロルはヌーベルヴァーグ勢の中にあってミステリ、スリラー系の映画にとりわけ理解の深い人だった。ジョルジュ・シムノンに捧げられたという本作は、そんな監督の人生の幕引きにふさわしい円熟の一作といっていいだろう。
日本推理作家協会報2010年12月号]
※英字幕予告編