ブラック・スワン/ダーレン・アロノフスキー監督(2010・米)

グリフターズ/詐欺師たち』のアネット・ベニング、『デッド・カーム/戦慄の航海』のニコール・キッドマン、『シャッター アイランド』のミシェル・ウィリアムズといった過去にミステリ映画でいい仕事をした女優たちがずらりと顔を揃えた本年アカデミー賞の主演女優賞部門だが、強力なライバルたちを押しのけ、華麗なる女の闘いを制したのは、ナタリー・ポートマンだった。作品賞や監督賞の栄誉を『英国王のスピーチ』にさらわれた『ブラック・スワン』は、彼女のおかげで一矢を報いた形となったが、バレリーナ役を演じたポートマンの熱演は半端じゃなかったようで、共演したバレー・ダンサーのベンジャミン・ミルビエと婚約、そして懐妊というニュースのおまけまでついた。
その『ブラック・スワン』は、バレーの世界を題材にしたバック・ステージものであり、スポ根ものでもある。新しいシーズンを迎えるニューヨーク・シティ・バレー団では、ベテランのプリマ・バレリーナが引退することとなり、若手にチャンスがめぐってきた。技術的には申し分ないものを持ちながら、成熟した女性の魅力に欠けるという指摘を受けるナタリー・ポートマンだが、芸術監督のヴァンサン・カッセルから主役の指名を勝ち取り、清純な白鳥オデットと王子を誘惑する黒鳥オディールの二役に挑戦することになった。しかし、嫉妬する先輩やセクシャルな魅力を放つ同僚の目を意識せざるをえない彼女は、精神的に追い詰められていき、初日を目前にして、ついには理解者である筈の母親とまで衝突してしまう。
 ホラー映画さながらの場面が次から次へと登場するが、ミステリとしての作りは案外と精緻で、終盤での楽屋のエピソードから不可解な出来事の数々がきちんと説明されるあたりは見事といっていい。引退目前のバレリーナを演じるウィノナ・ライダーや、娘のためキャリアを棒にふった過去を引きずる母親役のバーバラ・ハーシーといった年期の入った共演者たちを向こうにまわし、儚さと業の深さを併せ持ったキャラクターをきっちりと演じきったポートマンのヒロインぶりも、観る価値は十分ある。監督は、『レスラー』が大きな話題となったダーレン・アロノフスキー
日本推理作家協会報2011年7月号]
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