完全なる報復/F・ゲイリー・グレイ監督(2009・米)

司法取引の是非をめぐっては、日本でもさまざまな議論があるようだが、F・ゲイリー・グレイ監督の『完全なる報復』は、この罪と罰をめぐる取引の問題点に鋭く迫った作品だ。ジェラルド・バトラーは二人組の強盗に襲われ、妻と幼い娘を殺される。まもなく犯人は逮捕されるが、フィラデルフィアの検察局で有罪獲得率ナンバーワンを誇る検事ジェイミー・フォックスの差配で、共犯者の死刑と引き換えに、主犯格と思しき凶悪な男は軽い禁固刑となってしまう。十年後、共犯者の死刑が執行されるが、使われた薬品がすり替えられるという事件が起こった。さらに、先に出獄していた主犯格の男はバラバラの死体となって発見される。司法取引に納得がいかず、無念な表情を浮かべていたジェラルドの姿が目に浮かんだ検事は、彼の復讐が始まったこと知るが。
聞くところによると、アメリカでは刑事裁判の九割で司法取引が行われているというが、時間と費用の節約という合理主義の裏側で置き去りにされた正義の問題という重たい主題を掲げながら、謎が謎を呼ぶ冴えた展開の作品に仕上がっているのが素晴らしい。原題は「法を守る市民」で、ジェラルド・バトラーの報復は社会正義と個人的な復讐の危ういバランスから成り立っていて、正義を実現するために悪をなさねばならないというジレンマも内包している。しかし、被害者の立場から一転して不敵な笑みを浮かべる主人公が実に不気味で、先の読めない展開とあいまって、サスペンスフルかつ謎ときの面白さに満ちている。今年のミステリ映画における最初の収穫は本作で決まり。
日本推理作家協会報2011年3月号]
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