15のわけあり小説/ジェフリー・アーチャー(新潮文庫)

力のこもった長編の数々に較べると、その箸休めというか、余技的と思えるものがこれまでは多かったが、今回の『15のわけあり小説』では、そんな器用さよりも短編作家としての本領を見せつける作品が多いことに嬉しい驚きをおぼえる。
例えば、収録作のひとつ「メンバーズ・オンリー」は、よそ者に対して厳しい審査基準を設ける排他的なゴルフクラブに、なんとしてもメンバーとして認められようと奮闘する男の物語だが、ユーモアを交えつつ飄々と語られていく半生のドラマから、ひとりの男の人生が静かに立ち上がってくる。同様の感動は「外交手腕のない外交官」や「アイルランド人ならではの幸運」といった作品からもしみじみ伝わってくる。
無論、ショートストーリーらしい切れの良さがある犯罪小説風の「きみに首ったけ」や、オフビートでどっかすっ惚けた「女王陛下からの祝電」なども面白いのだが、その過半数が世界を渡り歩き、集めてまわった実話を題材にした作品と豪語するだけあって、人生という時の流れを自在に切り取り、そこにひとつの真理や普遍を覗かせる作者の小説作法が素晴らしい。先の長編『遥かなる未踏峰』ともども、今まさにアーチャーが作家としての円熟期にあることを改めて確認できる一冊だ。
[ミステリマガジン2011年7月号]

15のわけあり小説 (新潮文庫)

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