ラスト・ターゲット/アントン・コービン監督(2010・米)

原作とその映画化が似て非なるものなのは当然だが、マーティン・ブースの『暗闇の蝶』(『影なき紳士』のタイトルでも旧訳あり)を映画化したアントン・コービン監督の『ラスト・ターゲット』は、原作のエッセンスを抜き出し、それを鮮やかに再構築してみせる。脚本を担当したのは、この映画と前後してグレアム・グリーンの原作をモッズの時代に移し変えた『ブライトン・ロック』で監督デビューも果たしたローワン・ジョフィで、原作の作品世界や登場人物を生かしつつも、主人公の謎の人物をイギリス人からアメリカ人に置き換えるなど大胆な改変を加え、もうひとつの別の物語を紡ぎ出している。(ただし、映画の冒頭は思い切り原作のネタバレになっているので、両方を楽しみたい方はご注意を)
迫りくる刺客を返り討ちにし、追われるようにスウェーデンの雪原からイタリアの田舎町にやってきた殺し屋のジョージ・クルーニーは、ボスから新たな指令を受け取る。しかし、心を寄せる女性ヴィオランテ・プラシドとの出会いをきっかけにして、血なまぐさい過去に別れを告げる決心が彼の中で固まっていく。恋人とのひとときや、信頼すべき神父(これを超ベテランのパオロ・ボナチェッリが演じている)との交流で、主人公が人としての生き方を取り戻していく過程を描いている。それを土台に、依頼人テクラ・ルーテンとのやりとりを通じて非情な商売のプロフェショナリズムを克明に浮かび上がらせていく妙味は、巧妙なる脚本の産物だろう。
日本推理作家協会報2011年7号]
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