いたって明解な殺人/グラント・ジャーキンス(新潮文庫)

裁判員制度がスタートして間もなく二年が過ぎようとしているが、この間一般市民の司法に対する関心が一段と高まったことは間違いのないところだろう。『いたって明解な殺人』(新潮文庫)は、アメリカから登場したグラント・ジャーキンスという新人作家のきわめてユニークなデビュー作だ。妻殺しの罪で逮捕されたひとりの男の裁判シーンから始まる。
ただ一人の肉親である兄が主人公の弁護に立つが、有力な証人を揃えた検察の追及にあった被告側は、絶体絶命の窮地に立たされる。しかし、そこに思わぬ光明がさしこむ。心理サスペンス風の幕開きから、やがて物語は犯罪小説の色合いを帯び始め、場面は法廷へと移っていく。終始途切れぬ緊張感も見事だ。ひと粒で二度ならぬ三度美味しい贅沢な作品といっていいだろう。
[波2011年4月号]

いたって明解な殺人 (新潮文庫)

いたって明解な殺人 (新潮文庫)