死者の名を読み上げよ/イアン・ランキン(ハヤカワ・ミステリ)

章割りに凝ったこういう作品こそ、章題がひと目で見渡せる目次のページがほしいところ。イアン・ランキンの『死者の名を読み上げよ』は、アナログのレコード盤に譬えて、全体をサイド1からサイド4までの四章仕立てとし、作中でフーの「四重人格」を繰り返し引用するなど、まさにロック・ミュージック好きの作者らしい拘りようだが、中身の方も二枚組のロックオペラに匹敵する十分な読み応えを備えている。
二○○五年初夏、主要国首脳会議(G8サミット)の開催が目前に迫ったスコットランド。首都のエジンバラでは、混乱を回避するために英国全土から警察官が集められていた。そんなさなか、婦女暴行の前科を持つ悪党が死体で見つかった。後日、被害者の衣類の一部が別の犯行現場で発見されたことから、同一犯による連続殺人が疑われることに。サミットの警備を優先せよという上層部からの圧力をかわしつつ、リーバスは相棒の女性刑事シボーンとともに真相に迫ろうとするが、そんな彼らに、ギャングのカファティが接近を図ってくる。
主人公のリーバス警部も、退職まで残すところあと一年。しかし、エジンバラの硬骨漢に老いや衰えは見えない。過去に確執もあった弟の葬儀場面から物語は始まるが、連続殺人に謎の転落死が絡んだ不可解な事件を前に、公安部との対立や宿敵カファティの横槍をかわしながら、真相解明に向けて突き進んでいく。さまざまな家族関係を浮かび上がらせ、対比させる小説作法の巧みさもさることながら、G8をめぐり、〈ライブ8〉の開催や市民らのデモ行動、さらにはロンドンで起きた爆破テロ事件など、英国中を揺るがした騒乱の一週間を、謎ときとともにライブ感覚で描ききった剛力ぶりには惚れ惚れさせられる。
[ミステリマガジン2010年6月号]