エコー・パーク/マイクル・コナリー(講談社文庫)

警察小説、ハードボイルド、ノワール、サイコスリラー、本格ものと、その持ち味をひと口に語りきれないマイクル・コナリーの作品だが、ハリー・ボッシュのシリーズを中心として枝葉を広げた登場人物のファミリー・ツリーからは、一種の大河ドラマの面白さも生まれている。新着の『エコー・パーク』でも、「ザ・ポエット」、「天使と罪の街」に続き、FBI捜査官レイチェル・ウォリングが三たび登場し、主人公の捜査に手を差し伸べる。
ハリウッドの丘陵地帯に広がる集合住宅地域のエコー・パークで、二体のバラバラ死体を車に積んでいた男が逮捕された。ロス市警未解決事件班のボッシュに声がかかったのは、死刑免除を交換条件に男が自供した過去九件の殺人の中に、彼が追う十三年前の失踪事件が含まれていたからだった。当時の捜査に手落ちがあった可能性が明らかとなり、自らを責めるボッシュは、事件の捜査を主導する検察官に無断で、プロファイルの専門家レイチェルに応援を仰ぐ。しかしそんな矢先、現場検証のさ中に不測の事態が発生し、パートナーのキズミン刑事が瀕死の重傷を負ってしまう。
微妙な関係のレイチェルとの再会、相棒キズミンを襲う危機、過去の事件への悔恨と、本作においても主人公の生き方はさまざまな横波を受けるが、安寧に背を向け、自らの正義を貫き通すボッシュの姿勢に変化はない。章を追うごとに局面が切り替わっていくスリル満点な展開も素晴らしく、シャープな謎解きと見事な物語の帰結が待ち受ける幕切れまで、間然するところがない。現代ミステリのもっとも進化した形と呼ぶに若くはない円熟のシリーズ第十二作だ。
ミステリ・マガジン2010年7月号]

エコー・パーク(上) (講談社文庫)

エコー・パーク(上) (講談社文庫)

エコー・パーク(下) (講談社文庫)

エコー・パーク(下) (講談社文庫)