ぼくの名はチェット/スペンサー・クイン(東京創元社)

文庫に入ったポール・オースターの『ティンブクトゥ』と続けて読むと、ちょっとしたシンクロニシティーに頬が緩むこと間違いなしのスペンサー・クイン『ぼくの名はチェット』。主人公のチェットは体重四十キロあまりのミックス犬だが、試験につまづいて警察犬学校を卒業できず、ラスベガスに近い町で探偵事務所を営むバーニーと暮らしている。優秀だがときにちょっと頼りない飼い主とは、主従というより相棒同士に近い。
この一人と一匹がコンビを組むシリーズ第一作は、家出とも誘拐ともつかない女子高校生が行方不明になった事件をめぐって、チェットが大活躍する。ミステリとしての出来映えは正直物足りないが、チェットの犬目線で語られていく一人称が新鮮且つ「なーるほど」と頷きたくなることばかり。ミステリ・ファンだけでなく、犬好きにも捧げたい一冊だ。
本の雑誌2010年8月号]

ぼくの名はチェット (名犬チェットと探偵バーニー1) (名犬チェットと探偵バーニー 1)

ぼくの名はチェット (名犬チェットと探偵バーニー1) (名犬チェットと探偵バーニー 1)