裏切りの峡谷/メグ・ガーディナー(集英社文庫)

イギリスのみで出版されていたデビュー作の『チャイナ・レイク』が、七年目の昨年になってやっと母国アメリカでの出版がかない、めでたくエドガー賞(最優秀ペイパーバック部門)まで受賞してしまったメグ・ガーディナーだが、『裏切りの峡谷』はその彼女の第二作。前作に引き続き、SF作家のエヴァン・ディレイニーとその婚約者で弁護士のジェシーブラックバーンが再び活躍する。
交通事故に巻き込まれ、一緒にいた仲間のひとりは死亡、自分も半身不随の障害を負ってしまったジェシー。それから三年がたち、メキシコに逃亡していたひき逃げ犯人のブランドが、ふたたび彼の前に姿を現した。逮捕される危険をおかしてまで、彼が古巣の町に戻ってきたのはなぜか? エヴァンとジェシーはブランドをつけまわすが、当のブランドはふたりのことなど眼中にない様子で、不可解な行動をとり続ける。目的は金か、それとも復讐か? やがて、彼らの身辺にはきな臭い空気が漂いはじめ、ついには殺人事件も発生する。
出だしの数章を読んで、あまりに前作と違う空気にびっくり。同じ作者、同じシリーズとは思えないくらいに、語り口はくだけた調子になり、ユーモアもスラップスティックに近いのりになっている。日本での版元や翻訳者がかわったせいか、それともシリーズそのものに変化があったのか、そのあたりは定かではないが、個人的には暗く煮え切らないところのあった前作よりも、本作の突き抜けた明るさを買う。蛇行するようなストーリー展開の複雑さも、饒舌な語り口との相性がよく、これはこれでアリだなと思ってしまう。
[ミステリマガジン2010年7月号]

裏切りの峡谷 (集英社文庫)

裏切りの峡谷 (集英社文庫)