英雄たちの朝(ファージング1)/ジョー・ウォルトン(創元推理文庫)

世界幻想文学大賞受賞作家ジョー・ウォルトンの『英雄たちの朝』だが、この作品は歴史改変ものの三部作〈ファージング〉のパート1にあたる。第二次大戦で敵方のナチとの間に講和条約を結び、名誉ある和平を享受している終戦から九年がたったイギリスが舞台。ハンプシャー州にある古いお屋敷で開かれた国家権力の中枢を担うファージング・ヤットと呼ばれる派閥の面々が集うパーティのさ中、重鎮議員のひとりが殺害されるという事件が持ち上がる。
なんとも見事なフーダニットで、英国流のユーモアを交えながら、殺人事件の顛末が語られていく。スコットランドヤードから切れ者の警部補が駆けつけるが、その探偵役の精緻な推理も読みどころ。黄金時代にも通じる絢爛たる英ミステリ伝統の芳香がなんといっても素晴らしいが、歴史改変ものとして骨太の展開が待ち受ける次巻以降にもさらなる興味がつのる。
本の雑誌2010年7月号]

英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)

英雄たちの朝 (ファージングI) (創元推理文庫)