説教師/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

ラーソンの〈ミレニアム〉をめぐるお祭り騒ぎもさすがに一段落だが、三部作でスウェーデンのミステリに少しでも興味が湧いたなら、迷わずに読んでほしいのがカミラ・レックバリだ。海辺の小さな町を舞台に、伝記作家のエリカと警官のパトリックの主人公カップルをめぐるシリーズというよりは年代記といった佇まいの作品だが、昨年紹介された第一作『氷姫』ではエリカが素人探偵ぶりを発揮したのに対し、『説教師』は、パトリックに主役を交替しての警察小説となっている。
観光スポットの洞窟で旅行者の死体が古い白骨とともに見つかり、容疑を向けられた宗教団体を主宰する一族三世代の秘密が解き明かされていく。やや平凡なローカルミステリが、途中から思いがけず深い謎を掘り起こしていく前作の面白さはそのままに、人間味あふれる主人公ら捜査陣のエピソードも充実。スウェーデンの現代ミステリ界において、レックバリはマンケルと肩を並べる実力の持ち主と太鼓判を押す。
[本の雑誌2010年8月号]

説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)