我らの罪を許したまえ/ロマン・サルドゥ(河出書房新社)

エーコの『薔薇の名前』がわが国に紹介され、歴史ミステリが大きな脚光を浴びたのはすでに二十年前のことだけれど、久し振りにあの名作と肩を並べる作品が登場した。フランスの新星ロマン・サルドゥのデビュー作『我らの罪を許したまえ』である。
十三世紀末、南フランスの辺境の村で川遊びをしていた少女たちが、堰に引っかかっていた片腕を見つけた。さらにいくつもの手や足、胴体などが流れ着いたことから、大騒ぎになる。それから一年後の冬、今度は同じ村で司教が惨殺される。遺体を親族に届けるため、助任司祭シュケはパリへと旅立ち、亡き司教と入れ替わるように教区にやってきた新司教アンノ・ギは、従者の少年と大男を伴い、音信がとだえて久しい村を探し、布教活動を再開するために出発する。その村はなぜ地図から消えたのか。また、司教はどうして殺されなければならなかったのか。そして、バラバラ事件との関係は。シュケとアンノ・ギ、それぞれの旅の物語に、さらに前代未聞のスキャンダルを起こした聖職者アイマールとそれを償おうとする父親の騎士のエピソードが加わり、闇の歴史が明らかにされていく。
 並行して語られていく三つの物語に含みのある面白さがあって、それだけでも十分に幸福な読書なのに、終盤それが絡み合って複雑な絵柄を浮かび上がらせるのだから堪えられない。中世のキリスト教信仰をめぐるダークサイドを巡りながらも、ロマンチシズム漂うストーリーテリングは実に魅力的で、ここぞというくだりには、サスペンスもある。すごい新人が登場したものだ。くれぐれも読み逃しなきよう。
[ミステリマガジン2010年7月号]

我らの罪を許したまえ

我らの罪を許したまえ