冷たい雨に撃て、約束の銃弾を/ジョニー・トー監督(2009・香)

この人まで出演させてしまったのにはちょっと驚きました、フランスの国民的俳優(&歌手)ジョニー・アリディ。ヨーロッパでも評価の高いジョニー・トーならではの豪腕ぶりといっていいだろう。娘役のシルヴィー・テステューの起用ともども、喝采のキャスティングだと思う。その『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』は、復讐の物語である。結婚してマカオで暮らすシルヴィア・テスキューとその一家が謎の一味に襲撃を受け、夫とふたりの子どもは射殺、自身も瀕死の重傷を負った。フランスから駆けつけ、娘の前で犯人たちへの復讐を誓った父親のジョニー・アリディは、宿泊先のホテルでたまたま三人の殺し屋たちの仕事の現場に遭遇し、復讐に手を貸すようその三人組を口説き落とす。
さすがの香仏混交チーム、無国籍のハードボイルド系犯罪映画として、名作「エグザイル/絆」を思い起こさせる出来映えだ。かつての日活アクションを彷彿とさせながら、三人組の殺し屋を演じるアンソニー・ウォンラム・カートン、ラム・シュの三者三様や、アリディを交えてのチームワークをテンポよく描いていく。ときにエモーショナルに、またときに観ていて恥ずかしいくらいのスタイリッシュな演出が次々繰り出されるが、思わず唸ってしまうのは、中盤あたりから父親アリディの記憶障害が前面に出てくる不思議なテイストで、それが鈴木清順を思わせるクライマックスへと繋がっていく。ひとりの人間が無垢へと還っていくラストシーンも見事な着地点だと思う。
日本推理作家協会報2010年7月号]
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