さよならまでの三週間/C・J・ボックス(ハヤカワミステリ文庫)

「沈黙の森」に始まるワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットものも決して悪い出来ではなかったが、シリーズ外の「ブルー・ヘブン」がエドガー賞に輝いたことで箔がついたか、C・J・ボックスという作家に改めて注目が集まっているようだ。そしてその勢いは、新作『さよならまでの三週間』でますます拍車がかかるに違いない。念願叶い、生後間もない養子を迎えて幸福な日々を送る夫婦の前途に、突如として暗雲がわきあがってくるのが物語の幕開き。
その原因は、一度は実父が放棄した親権をなぜかその家族が主張し、子どもを返せと言い始めたからで、妻と幼い娘を守る責任と使命が、主人公ジャックの肩に重くのしかかってくる。そんな主人公の行動に焦点を絞っていくところは、男の矜持に拘り続けた故ロバート・B・パーカーを思い起こさせるが、パーカーほど確信犯的なところは見当たらず、むしろ葛藤に身もだえする主人公の迷う姿を描くことに力を注いでいるところがこの作家の持ち味だろう。実父の父親が連邦判事だったりするなど、やや作り過ぎのところもあるが、ヒューマニズムと拮抗しつつも、猶予された三週間というタイムリミットのサスペンスが終盤まで途切れず、物語を引き締めているところがいい。
本の雑誌2010年7月号]

さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)

さよならまでの三週間 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-2)