カストロ謀殺指令/デイヴィッド・L・ロビンズ(新潮文庫)

大学教授でありながら専門が歴史学の暗殺史だったことから、ルーズベルト暗殺という歴史の舞台裏に引きずり込まれてしまった前作から十六年、ラメック教授が再び登場するデイヴィッド・L・ロビンズの『カストロ謀殺指令』である。アメリカに反旗を掲げ、キューバを独立に導いたカストロは、必ずや暗殺のターゲットとなる。そう確信したラメックは、歴史的な事件の現場に立ち会うためにハバナを訪れるが、そこで不計も接近してきたキューバ秘密警察とCIAの間で板ばさみになり、またもカストロ暗殺をめぐる陰謀とかけ引きの場に駆り出されてしまう。
書斎を一歩出れば、暴力にも怯まない主人公の暗殺のエキスートぶりはますます磨きがかかり、今回も好感度高し。ピッグス湾事件へと向かう緊張感をはらんだ時代の空気をたっぷり盛り込み、暗殺計画をめぐる虚々実々を二転三転する鮮やかな展開の中に描いていく。国家のたくらみの非人間的な側面をドラスティックに捉えてはいるが、窮地に立たされた人間が自らの限界を突破しようとする冒険小説的なカタルシスも大きい。本作が気に入った読者は、ぜひ前作『ルーズベルト暗殺計画』にもぜひ遡られたし。
本の雑誌2010年6月号]

カストロ謀殺指令〈上〉 (新潮文庫)

カストロ謀殺指令〈上〉 (新潮文庫)

カストロ謀殺指令〈下〉 (新潮文庫)

カストロ謀殺指令〈下〉 (新潮文庫)