ロスト・シンボル/ダン・ブラウン(角川書店)

ヴァチカンの爆発事件こと「天使と悪魔」、パリの大追跡こと「ダ・ヴィンチ・コード」に続くハーヴァード大学教授で宗教象徴学の専門家ロバート・ラングドンのシリーズ第三作『ロスト・シンボル』がやっと出た。今回は、大西洋をわたってワシントンDCが舞台。ラングドンは友人の歴史学者ソロモンからの要請で、講演のために連邦議会議事堂を訪れるが、そこで彼を出迎えたのは、聴衆ではなく切断された片腕だった。指に光るフリーメイソンの最高位を示す金の指輪はソロモンのもので、ラングドンは友人の妹で純粋知性科学者のキャサリンとともに、消えた友人の行方を追うが。
まるで双六のようにいちいち駒を進めていく物語の運びや、作者の都合で説明のための過去のシーンを強引に挟むという芸のない小説作法は相変わらず。ゲームブックさながらの作りに、興趣を削がれる読者は、わたしばかりではないだろう。しかし、テーマであるフリーメイスンと?究極の知恵?をめぐるペダントリーはやたら豊富だし、かの「時の娘」や「成吉思汗の秘密」の流れを組む歴史推理系の展開にかけては、この人の右に出るものなしの饒舌さと絢爛さを誇っている。ブラウン節ともいうべきドラマチックな展開がさらに過剰となり、読者の評価は分かれるだろうが、良くも悪くもこの作家らしさが一段と明確になった作品であることは間違いない。
本の雑誌2010年5月号]

ロスト・シンボル 上

ロスト・シンボル 上

ロスト・シンボル 下

ロスト・シンボル 下