ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話/ダニエル・ウォレス(武田ランダムハウスジャパン)

『ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話』は、「ビッグ・フィッシュ」でおなじみダニエル・ウォレスの待望久しい新作である。落ちぶれ果てた魔術師ヘンリーが、流浪の果てにたどり着いた寂れたサーカス団。そこで彼は忽然と姿を消してしまう。
語り手を交替しながら、ひとりの男をめぐって成功と転落のエピソードが語られていくが、それをパッチワーク状に織りなし、風変わりな物語に仕立て上げていくのは、まさにこの作者らしい語りのマジックだ。彼の人生を狂わせたのは、少年時代に見舞われた妹の誘拐事件なのだが、ホラ話めいた展開から終盤ぽっかりと浮かび上がる真相のインパクトに胸を衝かれる。オフビートなイントロから切なさ漂うアウトロまで、一気に読まされること間違いなし。
本の雑誌2010年6月号]

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話

ミスター・セバスチャンとサーカスから消えた男の話