ウディ・アレンの夢と犯罪/ウディ・アレン監督(2007・英)

スペインを舞台にした『それでも恋するバルセロナ』と日本公開の順序が逆になったが、『ウディ・アレンの夢と犯罪』は、『マッチポイント』に始まるロンドン三部作の掉尾を飾る作品。前作『タロットカード殺人事件』がミステリ映画として秀でていたこともあって、公開を待ち焦がれてました。原題の「カサンドラの夢」のカサンドラは、ギリシャ神話に出てくる凶事の預言者だが、その名がつけられたクルーザーをちょっと背伸びして買った労働者階級の兄弟が主人公。ホテル王を夢見る兄のユアン・マクレガーとギャンブル狂のコリン・ファレルは、ドッグレースで儲けた金をその分不相応な買い物につぎ込んだ。ところがうまいことばかりは続かない。弟がポーカーの大負けで背負った借金をなんとかしようと、ふたりは叔父のトム・ウィルキンソンに借金を申し込むが、その見返りとしてこともあろう殺人を依頼されることに。
犯罪に手を染めることの動揺とその後の自滅への道を描くのは、この手の映画の定石だが、本作も悪事を強要された兄弟それぞれの葛藤を克明に追っていく。実行か否かを幾度となく天秤にかけるふたりの心の揺れ具合が絶妙のサスペンスを醸していくあたりのあざといばかりの脚本と演出は、さすが百戦錬磨のアレン、老獪である。前半、手にいれたばかりのクルーザーで海に乗り出した兄弟が、上機嫌で交わすさりげない会話の中に、終盤の展開を暗示する一節があるあたりの含みも、手だれの技を感じる。
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