シャッター アイランド/マーティン・スコセッシ監督(2010・米)

金保証こそ付いていなかったが、原作は初紹介の折、結末部分を袋綴じで刊行されたことで話題になったデニス・ルヘイン作の映画化『シャッター アイランド』。ボストンの沖合いに浮かぶ小さな島には、犯罪者たちを収容する精神病院があった。連邦保安官レオナルド・ディカプリオは、そこから姿を消した女性患者の事件を捜査するために、部下のマーク・ラファロを伴い、島へ上陸する。消失事件は、部屋から暗号めいたメモ書きが見つかるなど謎めいたものだったが、やがて彼女はひょっこりと姿を現す。しかし、捜査官のディカプリオには、実はもうひとつ別の目的があった。妻ミシェル・ウィリアムズの命を奪った放火魔のイライアス・コティーズを見つけ出し、復讐を遂げることだった。折から襲ってきた嵐や相棒が消え失せるなどの不可解な出来事に邪魔され、捜査官は次第に焦燥に捕われていくが。
ミステリとしての出来映えはルヘインの原作に軍配、と言ってもあまり意味がないような気がするのは、監督のマーティン・スコセッシの興味は、主人公の自分探しにウェイトが置かれているからだ。なので、衝撃の結末と観客を煽った配給会社の宣伝は、完全に的が外れてしまっている。スコセッシの撮り方は、むしろ主人公の正体に向かって一直線で、最後まで真相に気づかない観客の方が例外という気がする。インタビューなどを読むと、監督はスリラーやホラーという言葉を口にしているようだが、なるほど頻出する不可解な場面から連想されるのは、キューブリックの「シャイニング」の名場面の数々だった。そうか、ホラー映画だったのか、と断ずるのは、少々穿ち過ぎかもしれないのだが。  
日本推理作家協会報2010年6月号]
》》》公式サイト