殺人犯/ロイ・チョウ監督(2009・香)

フーダニットをめぐって、久々に驚かされたのが、香港から登場したロイ・チョウ監督のデビュー作『殺人犯』だ。電気ドリルで被害者をめった刺しにする連続殺人犯を追う香港警察特捜班の刑事チェン・クアンタイが、犯人の手にかかって高層住宅の中庭に転落し、瀕死の重傷を負った。現場には、主人公のアーロン・クォック警部が倒れていたが、目の前で起こった事件についての一切の記憶を失っていた。周囲から疑いの目を向けられ、自らも疑心暗鬼にかられる主人公は、美しい妻のチャン・チュンニンと養子のタム・チュンヤッとの家庭生活にも不安を募らせていく。自宅で療養中に、次々つきつけられる自分=犯人の証拠の数々。そんな彼の前に、思いもかけなかった真犯人が姿を現す。
詳しくは書けないが、これぞ究極ともいうべき意外な犯人。驚くというよりは、ぎょっとさせられること必至のキワモノに近いが、改めて思い返すと、大胆不敵な伏線が張られていたことにも気づかされる。無理を無理でなくするためにさらに無理を重ねるという苦しさはあるが、意外な犯人を実現するために、そこまでやるかという情熱には恐れ入る。ミステリ映画として傑作であるとは口が裂けてもいえないが、一見の価値があることは間違いない。
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