ベルリン・コンスピラシー/マイケル・バー=ゾウハー

お懐かしやマイケル・バー=ゾウハー。途中ノンフィクションはあったが、小説としては実に十五年ぶりの復活となる『ベルリン・コンスピラシー』である。ロンドンから一夜にしてベルリンに連れ去られた老ユダヤ人の実業家プレイヴァマンは、その翌朝、警察に逮捕されてしまう。容疑は、六十年前に元ドイツ人将校を殺害した疑いだった。家族をナチに殺された彼は、その当時復讐を旗印にした反ナチ組織に属していた。そんな彼の過去を蒸し返そうとするのは誰か、そして何の目的で?
時代、舞台設定ともにしっかりとしたした冒険、スパイ小説を背景に、華麗などんでん返しを演じてみせる作家バー=ソウハーの完全復活だ。幾重にも仕掛けられたツイストが狡猾かつ精緻を極めているのは言うに及ばず、作中に捉えたひとりのユダヤ人の数奇な人生を通じ、戦いの愚かさ、人間というものの罪深さを炙り出すとともに、時代の危機的な現状にも警鐘を鳴らす。彼の全キャリアを総括するような作品といっても過言ではないだろう。
本の雑誌2010年5月号]

ベルリン・コンスピラシー (ハヤカワ文庫NV)

ベルリン・コンスピラシー (ハヤカワ文庫NV)