サスペンス

絵画鑑定家/マルティン・ズーター(ランダムハウス講談社文庫)

非英語圏からの優れたミステリの紹介が続いているが、ドイツのフィツェックやスウェーデンのラーソンらと並んで話題になるであろうマルティン・ズーターは、スイスからの登場だ。英国推理作家協会のダンカン・ローリー・インターナショナル・ダガー(最優秀翻…

出走/ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)

全盛期は年に一度届けられる読者への贈り物だったフランシスの長篇だが、晩年はそれに替わって短篇集が届けられた年もあった。 新刊を手にとって、いつになく薄っぺらなのに驚き、あれれ大丈夫かな、と思ったディック・フランシスの前作「騎乗」から、ほぼ一…

敵手/ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)

「再起」以降は、実質息子フェリックスの作であることは公然の秘密だとして、生涯のパートナーであり、創作にも手を貸していたといわれるメアリー(2000年に死去)がどの作品に協力していたかは明かされていない。ともあれ、1997年に出たこの「敵手」は、フ…

祝宴/ディック・フランシス&フェリックス・フランシス(早川書房)

『祝宴』は、復活した新生ディック・フランシスの第二弾。怪しいと思っていたがやはり合作者がいて、今回から息子のフェリックス・フランシスも連名でクレジットされるようになった。今回は馬の調教師を父親に持ちながらシェフとして成功した主人公が、自分…

再起/ディック・フランシス(ハヤカワ文庫)

新競馬シリーズ(あえてそう呼ぶ)の第一弾。以下にも懐疑的に書いたように、正直ファンにはいかにも不自然な復活に映ったが、後の展開から考えると、息子のフェリックスが手を貸して、いやほとんど彼の作品であったことは間違いのないところ。とはいえ、こ…

拮抗/ディック・フランシス&フェリックス・フランシス(早川書房)

「再起」で鮮やかな復活を遂げ、その後は父ディックと息子のフェリックスのフランシスの親子連名作品となった新競馬シリーズも、『拮抗』で早や四作目。今回の舞台に選ばれたのは、競馬専門のブックメーカー(賭け屋)の世界で、英国競馬界におけるオッズを…

ロード・キル/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

さまざまな職業を転々とした挙げ句に、小説を書いてみたらあたったなんて、作家の略歴の定番みたいなものだし、同じ英語圏でも大西洋を挟んでイギリスとアメリカの両国で刊行された作品の書名が異なるというのも、クラッシク・ミステリの時代からよくあるこ…

隣の家の少女/ジャック・ケッチャム(扶桑社海外文庫)

最近掲載された広告を見ると、なんでも10万部を突破だとか。本書が隠れたベストセラーとはちと怖い気がするが、映画の公開を目前にひかえ、それを記念してケッチャム作品のアーカイブを三作紹介します。 良識派が眉をしかめる中、じわじわとその評価を高め…

殺す者と殺される者/ヘレン・マクロイ(創元推理文庫)

古典の発掘に多小の黴臭さはつきものだと思うが、ヘレン・マクロイの諸作はその稀有な例外かもしれない。先のリバイバルで読者から好評をもって迎えられたときく『幽霊の2/3』しかり。そして今回復刊なった『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)またし…

暁に消えた微笑み/ルース・フランシスコ(ヴィレッジブックス)

ロマンス小説のような邦題なので、ややもすると見逃されそうだが、ルース・フランシスコの『暁に消えた微笑み』は、なかなか味なサスペンス小説だ。ローラが別れ話を切り出すや、ストーカーと化してしまった元恋人のスコット。しかしそんな矢先、ローラは忽…

悪意の森/タナ・フレンチ(集英社文庫)

やや紹介が遅れたが、アイルランドから登場した『悪意の森』のタナ・フレンチは、かなり楽しみな才能だ。ダブリン郊外の深い森に子供たちが姿を消した事件から二十年が過ぎ、ただひとり生還した少年が成人し、殺人課の刑事になっている。そんな彼の封印され…

レースリーダー/ブルノニア・バリー(ヴィレッジブックス)

魔女伝説でおなじみのマサチューセッツ州セーラムの町を舞台に、ファンタスティックなミステリを書き上げたのは、アメリカから登場したブルノニア・バリーだ。彼女の処女作『レースリーダー』は、レースの編み目から未来を読み取るという不思議な能力を代々…

チャイナ・レイク/メグ・ガーディナー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

エドガー賞とひと口に言っても、さまざまな部門賞があることはすでにご承知のとおりだが、その中でペイパーバック賞は、対象がペイパーバック・オリジナルなので、長篇賞からはやや格落ちにうつるかもしれない。しかし過去の受賞者には、ウィリアム・デアン…

ソウル・コレクター/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)

絵画の窃盗と殺人の罪で拘置所に収容された容疑者のアーサー・ライム。彼は、ニューヨーク市警科学捜査コンサルタント、リンカーン・ライムの従兄弟だった。おりしもロンドン警視庁との共同作戦のさ中で忙しいライムだったが、アーサーの妻の懇願もあって、…

被告の女性に関しては/フランシス・アイルズ(晶文社)

アントニイ・バークリーの未紹介作品を中心に、パーシヴァル・ワイルドやヘレン・マクロイなどの魅力的なラインナップで旗揚げされた<晶文社ミステリ>。もともと海外文学の紹介には定評のある出版社らしいミステリ叢書だった。 その一冊、フランシス・アイ…

バッド・モンキーズ/マット・ラフ(文藝春秋)

マット・ラフは、もともとSF読者の間ではスリップストリーム系の風変わりな作家として注目されてきた人のようだが、『バッド・モンキーズ』は、ミステリ・ファンにも十分対応可能な痛快なアクション小説である。矯正不能の悪者たち(すなわちバッド・モン…

レポメン/エリック・ガルシア(新潮文庫)

恐竜探偵シリーズの生みの親エリック・ガルシアの『レポメン』は、人工臓器が発達し、高価の臓器を買うためにはローンが一般化している近未来が舞台。主人公は、ローン滞納者からメスを使って手荒に臓器を回収する腕利きの取立屋(レポメン)だったが、ある…

氷姫/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

「ミレニアム」三部作の登場を待つまでもなく、スウェーデンの土壌がミステリにとって肥沃なことは、マイ・シューヴァルとペール・ヴァールー、ヘニング・マンケルらを読んできたミステリ・ファンなら先刻ご承知だろう。しかし、話題のスティーグ・ラーソン…

毒蛇の園/ジャック・カーリイ(文春文庫)

新作が待ち遠しい作家として、いまやサイコスリラーの分野だけでなく、本格ミステリファンの間でも注目を集めるジャック・カーリイ。雨の晩、ラジオの女性キャスターが、指を折られ、腹を裂かれた死体となって見つかる『毒蛇の園』でも、主人公の刑事を衛星…

死のドレスを花婿に/ピエール・ルメートル(柏書房)

非英語圏といっても、フランスはイギリスと並ぶヨーロッパのミステリ大国だが、ピエール・ルメートルはそのフランスで由緒あるコニャック・ミステリ大賞という登竜門を三年前にくぐったばかりの作家だ。日本の読者には初紹介となる『死のドレスを花婿に』は…

サイコブレイカー/セバスチャン・フィツェック(柏書房)

ミレニアム三部作のヒットが巻き起こした波及効果のひとつに、ヨーロッパの非英語圏作品への関心の高まりがあると思うが、セバスチャン・フィツェックはスティーヴ・ラーソンよりもひと足早く、ドイツのミステリシーンに日本の読者の目を向けさせた作家だ。…

荒野のホームズ、西へ行く/スティーヴ・ホッケンスミス(ハヤカワ・ミステリ)

スティーヴ・ホッケンスミスの『荒野のホームズ、西へ行く』は、ウェスタン小説さながらに十九世紀のアメリカ西部を舞台にしたドイル作を本歌取りした異色のシリーズ第二作だが、今回、ホームズとワトスンならぬグスタフとオットーの赤毛の兄弟コンビは、カ…

シャッター・アイランド/デニス・ルヘイン(ハヤカワ文庫)

結末が気になる!と読者に思わせることは、まさにミステリという文学形式の本懐だと思うけれども、誰が始めたのかは知らないが、結末の部分を封じた形で書店に並べるという袋とじの趣向*1は、ミステリ・ファンの稚気をくすぐる上手い商売の方法だと思う。し…

拳銃猿/ヴィクター・ギシュラー(ハヤカワ文庫)

書店の店頭で「なんてタイトルなんだ!」と呆れた読者も多いことと思う(かくいうわたしもそう)ヴィクター・ギシュラーの『拳銃猿』である。しかし、内容にしたところが、この能天気というか、おポンチというか、しょうもないタイトル通りなのだから、すごい…

死神を葬れ/ジョシュ・バゼル(新潮文庫)

フランクフルトで毎年開催される秋のブックフェア(書籍見本市)は、各国の出版事業者が集い、新作や話題作の出版権をめぐって争奪戦を繰り広げる場として世界最大規模のものだが、二年前そこで話題を独占したのが、この無名の新人作家による『死神を葬れ』…

灰色の嵐/ロバート・B・パーカー(早川書房)

ジェラール・ド・ヴィリエの〈プリンス・マルコ〉が170冊、さらにドン・ペンドルトン他の〈マック・ボラン〉に至っては360冊を越えるというのだから、シリーズものの最長不倒記録には遠く及ばないが、しかしロバート・B・パーカーのスペンサーものの長…

ベツレヘムの密告者/マット・ベイノン・リース(ランダムハウス講談社文庫)

西は地中海、東はヨルダン川。シリアやエジプト等と国境を接する面積約2万7000平方キロに及ぶ南北縦長の地パレスチナを舞台に新シリーズを立ち上げたのが、タイム誌の支局長を経験し、作家に転身した今もエルサレムに居を構えるイギリス作家マット・ベ…

凍てついた墓碑銘/ナンシー・ピカード(ハヤカワ文庫)

ここのところ、とんとご無沙汰のナンシー・ピカードだが、久々の『凍てついた墓碑銘』は、2007年のエドガー賞の最終候補にまで残った作品。残念ながら、ジェイソン・グッドウィンの『イスタンブールの群狼』に受賞の栄誉は譲ったが、アガサ賞、マカヴィ…

蛹令嬢の肖像/ヘザー・テレル(集英社文庫)

ナチスの美術品掠奪をテーマに、十七世紀、第二次大戦下、そして現代と三つの時代の物語がロマンチックな絵柄を織り成していくヘザー・テレルの『蛹令嬢の肖像』。「ダ・ヴィンチ・コード」をお手本にしたような既視感はあるものの、読者を飽かさないスピー…

木でできた海/ジョナサン・キャロル(創元推理文庫)

ジョナサン・キャロルの作品では、「蜂の巣にキス」、「我らが影の声」、「死者の書」がマイ・フェイバリットというと、ああ、やはり根っからのミステリ・ファンだね、と思われそうだが、とことん個性的でファンタスティックな彼の作風も実は嫌いじゃない。…