氷姫/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

「ミレニアム」三部作の登場を待つまでもなく、スウェーデンの土壌がミステリにとって肥沃なことは、マイ・シューヴァルとペール・ヴァールー、ヘニング・マンケルらを読んできたミステリ・ファンなら先刻ご承知だろう。しかし、話題のスティーグ・ラーソンに続き、このカミラ・レックバリも同国の作家だと知れば、このスカンジナビア半島の東側に位置する王国への注目度は、さらに高まるに違いない。
『氷姫』はその彼女のデビュー作で、作家のエリカと刑事パトリックのコンビのシリーズ第一作にあたる。久しく疎遠にしていたかつての親友アレクスが、手首を切った死体となって発見された。娘の自殺を受け入れない両親に背中を押されるように、伝記作家のエリカは、旧友の死の背景をさぐりはじめる。不審なのは、住む世界が全く違う資産家の老嬢が、故人を偲ぶ会に姿を見せたことで、教師だった彼女の長男は、四半世紀前に失踪し、行方が知れなかった。間もなく、アレクスと親しかった落ちぶれた画家の死体が見つかり、小さな町に連続殺人の波紋が広がっていく。
作者の描く人間関係の様々は、スウェーデン社会の現在をしっかりと視野に捉えたものだが、処女作ということもあるのだろうか、ときにそれがやや甘口だし、事件の進行も緩やかなため、前半はやや退屈する。しかし終盤、それは一転し、過去と現在が繋がり、真相が浮上してくるめくるめく展開が待ち受ける。夫のDVに悩む妹や、始まったばかりの恋人パトリックとの関係、そして何より作家としてどういう道を歩んでいくのかという主人公の今後の生き方など、二作目以降も大いに気にかかる。
[ミステリマガジン2009年11月号]

氷姫 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

氷姫 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)