灰色の嵐/ロバート・B・パーカー(早川書房)

ジェラール・ド・ヴィリエの〈プリンス・マルコ〉が170冊、さらにドン・ペンドルトン他の〈マック・ボラン〉に至っては360冊を越えるというのだから、シリーズものの最長不倒記録には遠く及ばないが、しかしロバート・B・パーカーのスペンサーものの長篇が三十六作目というのも、現代ミステリとしては、亡くなったマクベインが〈八七分署〉で打ち立てた五十三作という足跡に迫る頑張りといっていいだろう。
その最新作『灰色の嵐』でスペンサーは、セレブな美女からの依頼を受け、彼女の娘の結婚式にボディガードとして立ち会う仕事を引き受ける。しかし、式が執り行われるマサチューセッツ沖の孤島で、彼は因縁浅からぬ人物と邂逅する。灰色の男(ルビ:グレイマン)ことルーガー、過去にいくつかの事件でかかわった冷酷非情な殺し屋だった。折からの荒天をついて式は決行されたが、果たして、武装集団を率いた灰色の男は牧師と新郎を射殺、花嫁を誘拐してしまう。同道していたスーザンを守ることで精一杯だったスペンサーだが、一連の出来事に不審なものを感じとり、行動に出る。
当初はハードボイルドの新しい一派に分類され、トレーニング、食生活、ガールフレンドとの付き合い方など、主人公の目新しいライフスタイルが注目を集めた本シリーズだが、ロマンス小説の様式美よろしく、保守的な騎士道精神を頑なに守り続けるスペンサーには、いまや食傷をおぼえる向きもあるだろう。しかしその一方で、行き交う登場人物やエピソードの積み重ねで、シリーズには年代記的な面白さが派生してきているのも見逃せない。本作は、そんな長寿シリーズの功罪相半ばする中で、ミステリとしてのプロットの面白さでは近年出色の一編。こういう作品が出てくるから、このシリーズは侮れないのだ。
[ミステリマガジン2009年8月号]

灰色の嵐 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

灰色の嵐 (ハヤカワ・ノヴェルズ)