ソウル・コレクター/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)

絵画の窃盗と殺人の罪で拘置所に収容された容疑者のアーサー・ライム。彼は、ニューヨーク市警科学捜査コンサルタントリンカーン・ライムの従兄弟だった。おりしもロンドン警視庁との共同作戦のさ中で忙しいライムだったが、アーサーの妻の懇願もあって、重い腰を上げる。しかし、自信満々の検察や担当検事の話を聞くうち、まるでアーサーを陥れるためにお膳立てされたかのような事件の様相に、ライムは疑惑を抱く。ほぼ時を同じくして発生したレイプ殺人事件の証拠を偽装する犯人の手口がアーサーの事件と酷似していたことから、顧客データを扱うデータマイニングの会社が捜査線上に浮かび上がってくる。
名付けたのは作者のジェフリー・ディーヴァー本人らしいが、『ソウル・コレクター』という邦題はまさに言い得て妙。膨大な個人データを盗み、それを悪魔の知恵で弄ぶ「すべてを知る男」が今回の犯人役だ。これまでも数々の敵役が登場したが、本作の犯人の身近なリアリティは半端じゃなく、捜査陣を苦しめる一手一手の卑劣さに読者も戦慄をおぼえるに違いない。一方。従兄弟との過去をめぐるライムの葛藤や、相棒のアメリアが頭を悩ますパムとのエピソード、ルーキーことロナルドの成長の物語といったサイドストーリーの枝葉が物語をしっかりと豊かなものにしているあたりにも、八作目というシリーズの年輪を感じる。
[ミステリマガジン2009年1月号]

ソウル・コレクター

ソウル・コレクター