悪意の森/タナ・フレンチ(集英社文庫)

やや紹介が遅れたが、アイルランドから登場した『悪意の森』のタナ・フレンチは、かなり楽しみな才能だ。ダブリン郊外の深い森に子供たちが姿を消した事件から二十年が過ぎ、ただひとり生還した少年が成人し、殺人課の刑事になっている。そんな彼の封印された記憶をこじあけようとするかのように、同じ森で不可解な殺人事件が起きる。
精緻な描写と粘着度の高い文体で、読者を絡め取っていく手腕は、なるほど、エドガー賞の最優秀新人も伊達じゃない。捜査陣を翻弄し、たじたじにする犯人像も鮮烈だ。願わくは、物語冒頭の謎をめぐる続編が、近い将来に書かれることを。
本の雑誌2010年3月号]

悪意の森 (上) (悪意の森) (集英社文庫)

悪意の森 (上) (悪意の森) (集英社文庫)

悪意の森 (下) (悪意の森) (集英社文庫)

悪意の森 (下) (悪意の森) (集英社文庫)