チャイナ・レイク/メグ・ガーディナー(ハヤカワ・ミステリ文庫)

エドガー賞とひと口に言っても、さまざまな部門賞があることはすでにご承知のとおりだが、その中でペイパーバック賞は、対象がペイパーバック・オリジナルなので、長篇賞からはやや格落ちにうつるかもしれない。しかし過去の受賞者には、ウィリアム・デアンドリアやキース・ピータースン、デイヴィッド・ハンドラーといった錚々たる顔ぶれが並んでいるのだから、侮るわけにはいかないだろう。さて、二○○九年の受賞作『チャイナ・レイク』のメグ・ガーディナーや、いかに。
弁護士でSF作家であるエヴァンの可愛い甥っ子ルークを、悪名高き教団の〈レムナント〉がつけ狙い始めた。どうやら、兄の別れた妻で、ルークの母親タビサが教団に入信したことと関係があるらしい。任務のために不在がちな海軍中佐の兄ブライアンにかわり、エヴァンは恋人のジェシーの助けを借り、甥を守ろうとするが、狂信者たちの嫌がらせは次第にエスカレートし、あわや誘拐という事態にまで発展する。エヴァンの機転と捨て身の防戦で事なきを得たものの、その直後、事態は思わぬ展開を遂げる。
この人の折り紙はあてにならないことも多いが、ロンドン在住のアメリカ作家メグ・ガーディナーの本作が、七年目に母国での出版が叶い、受賞の栄冠にまで漕ぎ着けたのは、間違いなくその御大スティーヴン・キングのご利益だろう。畳み掛けてくる異様な熱気と、一向に先の読めない展開で読者を絡めとる幕開きは、御大の太鼓判も頷ける素晴らしさだ。ただ、そんな異能ぶりを窺わせる反面、蛇行気味のストーリー展開や、どうしても感情移入しきれない登場人物など、荒削りな面もまだ多く残している。作者のその後の成長を、ぜひ近作で確認してみたいと思う。
[ミステリマガジン2010年2月号]

チャイナ・レイク (ハヤカワ・ミステリ文庫)

チャイナ・レイク (ハヤカワ・ミステリ文庫)