サスペンス

悪童 エリカ&パトリック事件簿/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

ここのところ台頭めざましい北欧の作家勢の中で、〈ミレニアム〉三部作のラーソンと肩を並べる最右翼は、間違いなくこのカミラ・レックバリだろう。彼女の〈エリカ&パトリック事件簿〉も、『悪童』でシリーズ三作目を迎える。主人公のカップル、小説家のエ…

夜の真義を/マイケル・コックス(文藝春秋)

ページをめくりながらこれが本当に二十一世紀に書かれた小説かとわが目を疑いたくなるような一冊である。(原著の発表年は二○○六年)本作とさらに続編をのこし、惜しまれて世を去ったマイケル・コックスのデビュー作『夜の真義を』は、十九世紀のイギリスを…

裏切りの代償 掃除屋クィン2/ブレット・バトルズ(RHブックス・プラス)

世界中のミステリ・ファンが集う〈バウチャーコン〉で、ベスト・スリラー賞に輝いたブレット・バトルズの『裏切りの代償』は、フリーランスの?清掃屋?ことジョナサン・ウィンが活躍する〈掃除屋クィン〉シリーズの第二作である。 今回舞い込んだ仕事は、ロス…

いたって明解な殺人/グラント・ジャーキンス(新潮文庫)

裁判員制度がスタートして間もなく二年が過ぎようとしているが、この間一般市民の司法に対する関心が一段と高まったことは間違いのないところだろう。『いたって明解な殺人』(新潮文庫)は、アメリカから登場したグラント・ジャーキンスという新人作家のき…

邪悪/ステファニー・ピントフ(ハヤカワミステリ文庫)

MWAが出版社のセント・マーティンズと共催した「ミナトーブックス・ミステリコンテスト」で第一席に選出されるや、その勢いでエドガー賞の最優秀新人賞にも輝いてしまったのが、ステファニー・ピントフの『邪悪』だ。一九○五年のニューヨーク近郊のドブソ…

矜持/ディック&フェリックス・フランシス(早川書房)

先に八十九歳で世を去ったディック・フランシスの名がクレジットされるおそらく最後の作品となる本作は、アフガンの戦地で右足を失った陸軍大尉トマス・フォーサイスが、負傷で帰宅休暇を命ぜられるところから始まる。やむなく折り合いの悪い母親のもとに身…

死角 オーバールック/マイクル・コナリー(講談社文庫)

上下巻でなかったり、邦題のつけ方が変わっていたりと、佇まいがいつもと異なるマイクル・コナリーの新作は、そもそも新聞小説という形式で書かれた作品のようだ。ウィークリー紙に合計十六回にわたって連載された事情や舞台裏については訳者あとがきに詳し…

暗闇の蝶/マーティン・ブース(新潮文庫)

都会の喧騒をはなれ、たおやかな時間が流れるイタリア中部の田舎町が舞台。本名はおろか、国籍すらも不明という初老の男がどこからともなくやって来て、この地に根を下ろした。蝶を専門に描く画家ということから、ミスター・バタフライの愛称で親しまれ、人…

ショパンの手稿譜/ジェフリー・ディーヴァーほか(ヴィレッジブックス)

昨年来日し、インタビューやファンとの交流イベントなどを通じて日本の読者の間では一段と親しみが増したジェフリー・ディーヴァーの、ちょっとユニークな企画の新作が届けられた。『ショパンの手稿譜』(ヴィレッジブックス)は、そもそも本国のアメリカで…

ロードサイド・クロス/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)

来日した生のジェフリー・ディーヴァー見たさの野次馬根性で、新作のプロモーションを兼ねたトークショーを覗いてきた。観客を共作者に見立てて小説が出来るまでを語った講演も実に楽しかったが、興味深かったのは、その後の質疑応答の中で、『眠れぬイヴの…

殺す手紙/ポール・アルテ(ハヤカワ・ミステリ)

リニューアル後のポケミスには、一冊ごとに変わっていく装丁デザインの楽しみが加わったが、ポール・アルテの『殺す手紙』は、黒の色調を活かした、これまた粋な装いの一冊だ。中身が一段組みというのも、ポケミス史上初の試みだという。 物語は、第二次世界…

ブラックランズ/ベリンダ・バウアー(小学館文庫)

デビュー作でいきなり本年CWA(英国推理作家協会)賞のゴールドダガーに輝いてしまったベリンダ・バウアーだが、受賞作の『ブラックランズ』は、児童を狙った連続殺人で服役中のシリアルキラーと、被害者の家族である十二歳の少年が、手紙のやりとりを通…

エアーズ家の没落/サラ・ウォーターズ(創元推理文庫)

『夜愁』で文学方面に行ってしまうのかなと思わせたサラ・ウォーターズだが、新作の『エアーズ家の没落』では、堂々とジャンル小説への帰還を果たした。第二次世界大戦直後という設定は前作とほぼ同じだが、舞台をイングランド中部の田園地帯に移して、没落…

愛書家の死/ジョン・ダニング(ハヤカワ文庫)

ジョン・ダニングの『愛書家の死』は、『死の蔵書』に幕をあけた元警官で古書店を経営するクリフォード・グリーンウェイのシリーズの数えて五作目にあたり、現時点での最新作である。 馬主としても有名だった富豪が遺した児童文学のコレクションから、何者か…

失踪家族/リウンッド・バークレイ(ヴィレッジブックス)

有名な死刑執行人の名を賞の名前に頂くアーサー・エリス賞(主催はCWCことカナダ推理作家協会)でおなじみのカナダのミステリ界は、『神々がほほえむ夜』のエリック・ライトや『悲しみの四十語』のジャイルズ・ブラントを始めとして、異端児マイケル・ス…

黒竜江から来た警部/サイモン・ルイス(RHブックスプラス)

ウェールズ出身というサイモン・ルイスだが、本邦初紹介となる『黒竜江から来た警部』は、中国に詳しいというトラベルライターとしての彼のキャリアが下地になっているに違いない。主人公のマー・ジエンは、中国の七台河市公安局に籍をおく警部だが、ある時…

新幹線大爆破/ジョゼフ・ランス&加藤阿礼(論創社)

東宝と東映の両社が、ほぼ時を同じくして新幹線を題材にした作品を製作したのは、もう三十五年も前のことだ。社会派のベクトルにやや傾いた清水一行原作の「動脈列島」よりも、当時全盛だったパニック、ディザスター映画の要素を基調に、クライム・サスペン…

ベルファストの12人の亡霊/スチュアート・ネヴィル(RHブックスプラス)

殺し屋を主人公にした物語なんか星の数ほど読んできたよ、というすれっからしの読者も、この作品には驚かされるのではないか。スチュアート・ネヴィルのデビュー作『ベルファストの12人の亡霊』の主人公フィーガンは、かつて凄腕の殺し屋としてIRAの仲間…

催眠[上下]/ラーシュ・ケプレル(ハヤカワ文庫)

いまやマンケルやラーソンばかりじゃないミステリの新王国スウェーデンから、カミラ・レックバリに続き、またも頼もしい新人が登場。なんでも海の向こうじゃマンケルの別名義じゃないかって噂がたったというから(ただし作風は違う)、その実力は推して知る…

説教師/カミラ・レックバリ(集英社文庫)

ラーソンの〈ミレニアム〉をめぐるお祭り騒ぎもさすがに一段落だが、三部作でスウェーデンのミステリに少しでも興味が湧いたなら、迷わずに読んでほしいのがカミラ・レックバリだ。海辺の小さな町を舞台に、伝記作家のエリカと警官のパトリックの主人公カッ…

ノンストップ!/サイモン・カーニック(文春文庫)

まさにそのタイトルが内容のすべてを言い当てているサイモン・カーニックの『ノンストップ!』は、久しく疎遠だった親友から突然かかってきた電話で幕をあける。その不可解な内容に首をかしげる間もなく主人公の平和な日常は暗転し、正体不明の集団に命を狙…

裏切りの峡谷/メグ・ガーディナー(集英社文庫)

イギリスのみで出版されていたデビュー作の『チャイナ・レイク』が、七年目の昨年になってやっと母国アメリカでの出版がかない、めでたくエドガー賞(最優秀ペイパーバック部門)まで受賞してしまったメグ・ガーディナーだが、『裏切りの峡谷』はその彼女の…

悪魔パズル/パトリック・クェンティン(論創社)

翻訳紹介されない作品にはそれなりの理由があるものだ、とも言われるけれど、ことパトリック・クェンティンに関しては当て嵌まらない。五年前に『悪女パズル』、三年前には『グリンドルの悪夢』と、実にのんびりしたペースではあるが優れた作品の紹介が進む…

さよならまでの三週間/C・J・ボックス(ハヤカワミステリ文庫)

「沈黙の森」に始まるワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットものも決して悪い出来ではなかったが、シリーズ外の「ブルー・ヘブン」がエドガー賞に輝いたことで箔がついたか、C・J・ボックスという作家に改めて注目が集まっているようだ。そしてその…

風船を売る男/シャーロット・アームストロング(創元推理文庫)

シャーロット・アームストロングは、エドガー賞を受賞した『毒薬の小壜』に代表されるように、市井の一員たる登場人物が事件に巻き込まれ、翻弄されるというパターンを得意とするアメリカの女性作家で、六十年代末に没するまでに三十冊近くの作品を世に送っ…

沼地の記憶/トマス・H・クック(文春文庫)

二年半ぶりに届けられたトマス・H・クックの新作『沼地の記憶』は、若き日の愚かな罪に対するひとりの男の悔恨の物語である。回想と裁判の記録から浮かび上がってくるのは、高校教師として教え子たちに接した主人公の若き日々で、殺人犯の息子とレッテルを…

ラスト・チャイルド/ジョン・ハート(ハヤカワ・ミステリ、ハヤカワ文庫)

デビュー作の「キングの死」、続く「川は静かに流れ」と、親と子の関係を主題に、テーマの咀嚼力と物語の力を見せつけたジョン・ハートの待ちに待った三作目は『ラスト・チャイルド』という作品だ。一年前に何者かに連れ去られ、行方不明となった妹のアリッ…

ロスト・シンボル/ダン・ブラウン(角川書店)

ヴァチカンの爆発事件こと「天使と悪魔」、パリの大追跡こと「ダ・ヴィンチ・コード」に続くハーヴァード大学教授で宗教象徴学の専門家ロバート・ラングドンのシリーズ第三作『ロスト・シンボル』がやっと出た。今回は、大西洋をわたってワシントンDCが舞台…

犯罪小説家/クレイグ・ハーウィッツ(ヴィレッジブックス)

CWA賞レースで、スパイ・冒険・スリラー部門賞にあたるイアン・フレミング・スチール・ダガーを「チャイルド44」と争って惜しくも敗れた『犯罪小説家』だが、そんな世評の応援もあってか、作者のクレッグ・ハーウィッツ自らが第二のデビュー作と語る自信作の…

最後の吐息/ジョージ・D・シューマン

ジョージ・D・シューマンの『最後の吐息』は、盲目の超能力者シェリー・ムーア・シリーズの第二作にあたる。ヒロインのシェリーは、死者の手を握ることによって死に際の記憶を読み取ることが出来るが、その特殊な力を捜査当局から見込まれて、前作『18秒の…