黒竜江から来た警部/サイモン・ルイス(RHブックスプラス)

ウェールズ出身というサイモン・ルイスだが、本邦初紹介となる『黒竜江から来た警部』は、中国に詳しいというトラベルライターとしての彼のキャリアが下地になっているに違いない。主人公のマー・ジエンは、中国の七台河市公安局に籍をおく警部だが、ある時ひとり娘のウェイウェイが泣きじゃくりながらかけてきた国際電話に動揺する。?パパ、助けて、お願い?という声を聞いた彼は、すべてを投げ出し娘の留学先であるロンドンへと駆けつける。しかし、娘はすでに大学をやめ、下宿先からも姿を消していた。
一方、福建省から来た青年ディン・ミンは、長い船旅の果てにイギリスにたどりついた。この国で心機一転、巻きなおしをはかるつもりだったが、しかし新しい雇い主は、どこか様子がおかしい。愛する妻とも引き離されて途方に暮れる彼は、間もなくひとりの同国人と偶然出会う。その同胞とは、なりふり構わず消えた自分の娘の捜査に奔走するジエン警部その人だった。
血に染まった携帯電話に娘の殺害場面の映像を見つけたジエンは、気が狂ったように犯罪組織の黒幕を追うが、本作の中心に据えられているのは、猪突猛進ともいうべきそんなジエン警部のモーレツな姿だ。しかしそれを取り巻くような形で、イギリスの言語も文化もまったくの門外漢という主人公のカルチャーギャップや、隔たった境遇ゆえにまったく噛み合わない出稼ぎ青年との凸凹コンビぶりが、絶妙のユーモアを醸し出している。まずは、読後もあとをひく新シリーズの開幕篇と言っていいだろう。
[ミステリマガジン2010年9月号]

黒竜江から来た警部 (RHブックス・プラス)

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