失踪家族/リウンッド・バークレイ(ヴィレッジブックス)

有名な死刑執行人の名を賞の名前に頂くアーサー・エリス賞(主催はCWCことカナダ推理作家協会)でおなじみのカナダのミステリ界は、『神々がほほえむ夜』のエリック・ライトや『悲しみの四十語』のジャイルズ・ブラントを始めとして、異端児マイケル・スレイド、英加両国を股にかけるピーター・ロビンスンなど実力派が顔を揃えるが、今月の一冊目リンウッド・バークレイの『失踪家族』は、久々に届けられた同国発の衝撃の一冊といっていいだろう。
ある朝、十四歳の少女シンシアが目を覚ますと、彼女ひとりを残して家族は忽然と姿を消していた。警察の捜査もむなしく、両親と兄の行方は知れぬままに二十五年が過ぎ、シンシアの心の傷は今も癒えていなかった。そんな彼女を支える夫のテリーが、この物語の主人公であり、語り手であるが、ふたりの間には、八歳になる愛娘のグレースがいて、一家は穏やかに暮らしていた。しかし二十五年前の事件に興味を持ったTV番組の取材を受けたことから、シンシアの心の奥に眠る不安を揺り動かすように、奇妙な出来事が一家を襲い、やがて殺人事件が発生する。
ヒロインを残して一家全員が消え失せるという冒頭のストレートな謎も相当に魅力的だが、それを損なうことなくスリリングに物語を構築していくストリーテリングの剛力ぶりに惚れ惚れする。見え隠れしながら真相がなかなか見えない謎に引き寄せられるように、読者は作者の術中に落ちていくが、中盤から意外な人物が主人公に手を貸すというフックのきいた展開も見事で、いくつもの家族をめぐるドラマが交錯する小説としての読み応えも十分だ。
[ミステリマガジン2010年11月号]

失踪家族 (ヴィレッジブックス)

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