催眠[上下]/ラーシュ・ケプレル(ハヤカワ文庫)

いまやマンケルやラーソンばかりじゃないミステリの新王国スウェーデンから、カミラ・レックバリに続き、またも頼もしい新人が登場。なんでも海の向こうじゃマンケルの別名義じゃないかって噂がたったというから(ただし作風は違う)、その実力は推して知るべし。ラーシュ・ケプレルの『催眠』は、過去に自分の指導する治療グループに起きた事件がもとで、催眠療法を使うことを自らに禁じてきた精神科医が、警察からの強い要請を受け、不可解な一家惨殺事件の手がかりを得るためその封印を解く。しかしその時から、彼と家族の身辺に不穏な事件が続発する。
サイコスリラーとしての捩れ具合も十分だし、異常心理への迫り方もスリリングだが、中盤で一家惨殺事件の真相が見えてくるや、今度は医師の過去へ物語りの重心が移動していく。読者の頁を繰るスピードが速まるのはそこからで、過去の事件が現在へと絡み、主人公が家族の一員としての自分を回復していく展開ともあいまって、物語はどんどん加速していくのだ。決して短いとはいえない上下巻の複雑な物語を、一気に読ませる語りの力には舌を巻くばかりだ。
本の雑誌2010年9月号]

催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)