エアーズ家の没落/サラ・ウォーターズ(創元推理文庫)

『夜愁』で文学方面に行ってしまうのかなと思わせたサラ・ウォーターズだが、新作の『エアーズ家の没落』では、堂々とジャンル小説への帰還を果たした。第二次世界大戦直後という設定は前作とほぼ同じだが、舞台をイングランド中部の田園地帯に移して、没落を辿る領主一家とその古い屋敷をめぐって物語は繰り広げられていく。
栄華も過去のものとなり、次第に朽ちかけていく屋敷でつつましやかに暮らすエアーズ一族の末裔たち。友人に代わって往診したことから一家と親交を深めることとなった医師は、彼らを襲う数奇な運命を次々と目の当たりにしていく。思い起こすのは、ヘンリー・ジェイムズウィリアム・フォークナーだが、スティーヴン・キングの乗りもあるので、読者はぐいぐい物語の深層部へと引き摺りこまれていく。ミステリアスな事件の数々は、人間の本性が引き起こしたものなのか、それとも魔性のものの企みなのか?最後の一節まで、読者は気を抜くことができない。
本の雑誌2010年11月号]

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)