ロードサイド・クロス/ジェフリー・ディーヴァー(文藝春秋)

来日した生のジェフリー・ディーヴァー見たさの野次馬根性で、新作のプロモーションを兼ねたトークショーを覗いてきた。観客を共作者に見立てて小説が出来るまでを語った講演も実に楽しかったが、興味深かったのは、その後の質疑応答の中で、『眠れぬイヴのために』(1994)を境に小説作法を大きく変えたと、ディーヴァー自身が語ったことだ。初期作と現在の間にある大きなギャップをめぐる永年の疑問が、まさに氷解した一瞬だった。
さて、新作『ロードサイド・クロス』でも、そんな作者に衰えは見えない。女子高校生が被害にあった拉致・殺人未遂事件で、犯人と疑われたのはネットゲームに熱中するオタクの少年トラヴィスだった。人気ブログに彼を中傷するコメントを書き込んだ少女への復讐と思われたが、やがて問題のブログは炎上、トラヴィスは忽然と姿を消してしまう。カリフォルニア州捜査局(CID)のダンス捜査官は少年の行方を追うが、ほぼ時を同じくしてまたもや拉致事件が発生する。連続する事件に共通するのは、犯行予告と思しき道端に置かれた奇妙な十字架だった。彼女はさらなる犯行を食い止めるため、ブログの主宰者に協力を求めようとするが。
『ウォッチメイカー』からスピンオフしたCIDの〈人間嘘発見器〉ことキャサリン・ダンスもののシリーズ化第二作だが、ライムものとの大きな違いは、向こうが超人的な名探偵の活躍に主軸を置いているのに対し、こちらはあくまで等身大の主人公の物語として書かれていることだろう。そういう意味で、安楽死事件にダンスの母親が巻き込まれるサイドストーリーは実に効果的だが、ライムものにも負けない謎解きのスペクタクルもきっちりと用意されているあたり、さすがはディーヴァー。素晴らしいサービス精神だ。
[ミステリマガジン2010年1月号]

ロードサイド・クロス

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