新幹線大爆破/ジョゼフ・ランス&加藤阿礼(論創社)

東宝東映の両社が、ほぼ時を同じくして新幹線を題材にした作品を製作したのは、もう三十五年も前のことだ。社会派のベクトルにやや傾いた清水一行原作の「動脈列島」よりも、当時全盛だったパニック、ディザスター映画の要素を基調に、クライム・サスペンスとして一本筋を通す「新幹線大爆破」の支持にまわった映画ファンが多く、その後同作は英仏など海外でも上映されたとは聞いていた。しかし、まさか英国で上梓されたノベライゼーションが逆輸入される日が来るとは思わなかった。
東京駅を出発した博多行き〈ひかり一○九号〉に爆弾が仕掛けられた。五百万ドルという身代金を要求する犯人グループは、時速八十キロを下回ると爆発する装置を列車にセットしたといい、こけおどしではないことを証明するために、北海道のローカル線で貨物列車を爆破してみせた。新幹線の車内では乗務員による捜索や荷物検査が徹底されるが、一向に危険物は発見されない。一方逮捕を焦る警察を嘲笑うかのように、狡猾な犯人たちは捜査陣の裏を次々かいていく。停車することのできない特急列車に乗り合わせた一五○○人の乗客の運命は?
この『新幹線大爆破』の共著者加藤阿礼とは同映画のプロデューサーのペンネームらしく、なるほど映画のエッセンスと数多くのエピソードを丹念に掬いあげている。ノベライズ担当のジョゼフ・ランスも、小気味よい文章と素早い場面転換で、十分な素材をサスペンスフルに料理し、小説として再構築している。今となってはさすがに時代を感じさせる部分もあるが、群像劇の密度が高く、犯人たちの横顔も鮮明。一気読みの快感を保証します。
[ミステリマガジン2010年10月号]

新幹線大爆破 (論創海外ミステリ)

新幹線大爆破 (論創海外ミステリ)