泥棒が1ダース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

『泥棒が1ダース』は、〈現代短篇の名手たち〉と銘打たれたシリーズ企画の一冊で、悪党パーカーや元刑事のミッチ・トビンらと並んで、作者の看板シリーズのひとつである盗みのプロ、ジョン・ドートマンダーが登場する作品だけ(一編のみ、並行世界に住むもう一人のドートマンダーことジョン・ラムジーが主演するが)で編まれた作品集である。
長篇におけるドートマンダーものは、彼とその仲間が企てる盗みの計画が、予期せぬ事態によって、とんでもない方向へと転がっていくという、シナリオ通りに進まない物語の面白さをひとつのパターンとしているが、短篇はその定石を踏まえながらも、ウェストレイクは短篇作家としての手足れの技を読者に見せつける。ほとんど目隠しの状態で読者はお話の中に放り込まれ、主人公らとともに、渦中の緊張感を味わわされるのだ。ミステリとしての意外性よりは、コメディとしての愉快さが前面に出た作品が多いのも特徴だが、ひとつひとつのシチュエーションには捻りがあって、読者を飽かせない。
発表時期は、八十年代のはじめの「愚かな質問には」から近年のものまで、ほぼ四半世紀に散らばるが、きれいに粒が揃っている。また、作者による序文も、興味深い舞台裏を明かしながら、愉快に笑わせてくれる。ちなみに、1ダースと謳いながら、収録作が十一篇なのは、一篇は盗まれてしまったというウェストレイクの洒落らしい。
[ミステリマガジン2009年11月号]