バッド・ニュース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

ベテラン、ドナルド・E・ウェストレイクの『バッド・ニュース』は、ドートマンダー・シリーズの新作で、あの「ホット・ロック」から数えて十件めとなる泥棒計画の顛末である。といっても、今回ドートマンダーは、なぜ自分はここにいるのか、と首を捻ってばかりいる。盟友ケルプのもってきた話が、インディアンたちのカジノの利益分配をめぐる怪しげな陰謀絡みで、墓の中の棺を掘り起こすという畑違いの仕事だったからだ。依頼主の企みを見抜いたり、参謀的な役を演じながらも、どこか手持ち無沙汰だったドートマンダーだが、思わぬ展開から計画が頓挫しかけた時、まさに彼と仲間たちの出番がやってくる。
いい知らせが三つある。まずは、ウェストレイクがすでに老境に入りながらも、元気に新作を発表し続けていること。次に、その新作が、依然としてミステリとしての質の高さをキープしていること。そして、最後にそれらの作品がわが国読者のために翻訳紹介されていることである。この「バッド・ニュース」も、ウェストレイクらしい機知を全編にちりばめながら、お馴染みの顔ぶれのほかに、ケチな詐欺師たちや田舎町の判事や弁護士、そしてしたたかなインディアンの娘たちを行き来させ、賑やかな人間模様を繰り広げてくれる。本作からシリーズに入る読者もきちんともてなす律儀な面白さが十分にそなわったシリーズ第十作だ。
[本の雑誌2006年10月号]

バッド・ニュース (ハヤカワ・ミステリ文庫)

バッド・ニュース (ハヤカワ・ミステリ文庫)