門外不出 探偵家族の事件ファイル/リサ・ラッツ(SB文庫)

先に明らかにされた2009年のエドガー賞候補になったリサ・ラッツ。彼女のデビュー作がこれ。まるでホームコメディのような展開に、え、え、え?と思った読者も多いことと思うが、それを踏まえた後半の展開が実は最高なんです。
主人公のイザベラは、サンフランシスコで一家をあげて私立探偵稼業を営むスペルマン家の長女で、十二歳の頃から両親を手伝ってきている。お年頃を過ぎても結婚できないのは、男運に恵まれないのか、それともボーイフレンドとみるとお節介な調査に走る父と母のせいか。
そんな彼女にも、本命の男がようやく現れた。しかし、相手の歯科医は、慎重な性格のせいか、イザベラの思い通りに恋は、弁護士業を営む兄から横槍が入ったり、探偵家業に憧れるおませな妹に振り回されたりと、思うにまかせない。探偵仕事から足を洗う決心をしたのもの束の間、両親からつきつけられた過去の事件の再調査を押しつけられてしまう。
家族の紹介や、過去のエピソードが断片的に語られる前半は、これって大丈夫?と不安をおぼえる読者も多いだろう。これが結構長いのだが、違和感をこらえてページをめくっていくと、やがて物語が動き始める。その途端に、前半まわり道をした登場人物等にまつわるディテールが、見事に活きてくる。
主人公一家の設定から、リューインの「探偵家族」を思い出したりもするが、同じコメディタッチでもユーモアの質は幾分違って、こちらはアメリカのテレビドラマにも通じる愉快さがある。作者は、ハリウッドの脚本家のようで、本作も映画化が決まっているというのも、なるほど頷ける。幕切れのちょっとした感動も含めて、ユーモア・ミステリとしてなかなかのお奨めだ。
[本の雑誌2007年9月号]