聖なる怪物/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

『聖なる怪物』は、新刊といっても二十年以上も前の作品の発掘なのだが、これがウェストレイクの餞舌な語りの魔術を駆使したなんともユニークな作品なのである。脚光と醜聞に満ちた人生を歩んだ老俳優のもとを訪れるインタビュアー。問わず語りのような人生の回顧を通じて、ひとりの男の光と影が明らかにされていく。笑いと戦慄の綱渡りの果てに読者が見つけるのは何か。先の「鉤」や「斧」と較べると、ややオフビートな手触りではあるがゆえに、やや読者を選ぶところはあるが、犯罪小説のマエストロの真骨頂はこの作品にも発揮されている。
[本の雑誌2005年4月号]

聖なる怪物 (文春文庫)

聖なる怪物 (文春文庫)