探偵稼業は運しだい/レジナルド・ヒル(PHP文芸文庫)

レジナルド・ヒルは、ちょっと前にダルジールものの『午前零時のフーガ』で、老いて益々盛んなところを日本の読者に見せつけたばかりだが、『探偵稼業は運しだい』はシリーズの最初の二作が紹介されたきり長らくご無沙汰だった私立探偵ジョー・シックススミスのシリーズの最新作である。
ちょっとおさらいをしておくと、主人公は黒人で独身の中年男。勤めていた工場を首になり、やむなく私立探偵業に鞍替えをしたが、頭の回転は決して速いとはいえないのに、奇妙な事件の数々を運の強さだけでこれまで乗り切ってきた。そんな彼に今回持ち込まれたのは、ハイソなゴルフ・クラブで起こった不可解な事件だった。依頼人はジェントルマンを絵に描いたような高潔な人物で、よりによってプレーの不正行為を疑われているという。グリーンに立ったことなど一度もない主人公だが、クラブへの入会希望者を装い、紳士の社交場たるゴルフ・クラブへと乗り込んでいくが。
コージー・ミステリが肩の凝らない本格ミステリだとすると、まさにコージー好きの読者にこそ読んでいただきたい作品だ。推理は苦手で、何かというとすぐに愛読する指南書を引っぱりだす探偵役というのが半端なく笑えるし、持ち前の強運と周囲の協力だけで事件を解決に導くというお約束もふるっている。ちょっと見には冴えないが、なぜか女性にはモテる彼の日常には、お色気がらみの愉快なアクシデントが起きることもしばしばで、読者を飽かさない。この作者らしい皮肉と下品なユーモアも随所に仕掛けられているので、ダルジール・ファンの読者もお見逃しなく。
[ミステリマガジン2011年9月号]

探偵稼業は運しだい (PHP文芸文庫)

探偵稼業は運しだい (PHP文芸文庫)