道化の町/ジェイムズ・パウエル(河出書房新社)

ジェイムズ・パウエルの『道化の町』は、ジャック・リッチーやロバート・トゥーイなど、一連の短編作家再評価の流れを組む一冊といっていいだろう。知名度では先発組に劣るかもしれないが、個性派という点ではミステリ界を眺め渡しても、パウエルほどの作家はまずいない。
注目すべきはディープなユーモア精神で、冒頭の「最新のニュース」で小気味よくジャブを繰り出したかと思えば、ジャックと豆の木の後日談である「魔法の国の殺人」やシュールで残酷な「詩人とロバ」で、その笑いを思わぬ方向へエスカレートさせていく。一方、「アルトドルフ症候群」や「死の不審番」といった特異な設定の中で堂々たる謎解きを繰り広げるものもあって、それがもっともクオリティ高く結実しているのが表題作だろう。その個性に癖はあるが、ユーモア、パズラー、どちらの嗜好にも十分にフィットする作品集だ。
[本の雑誌2008年5月号]

道化の町 (KAWADE MYSTERY)

道化の町 (KAWADE MYSTERY)