迷惑なんだけど?/カール・ハイアセン(文春文庫)

ソロデビューの「殺意のシーズン」以来、ひとりわが道を往くという恰好で飄々と作品を発表してきているカール・ハイアセンだが、前作の『復讐はお好き?』でぐんと評価がはねあがったのは、ハイアセンに変化があったのでなく、スクリューボールのような癖のある作風にわが国読者の目が慣れてきたからだろう。その間、実に二十年近くの歳月が流れている。しかし、新作の『迷惑なんだけど?』は、これまでよりもさらに輪をかけてオフビートな仕上がりだ。
シングルマザーのハニー・サンタナは、離婚歴はあるが平凡な主婦である。評判の美人だし、ひとり息子のフライも、母親思いの出来た子だ。しかし彼女にはたったひとつ弱点があった。それは、異様なまでの正義感の強さで、実は別れた元夫もそれが心配でならない。ある晩息子と食卓を囲んでいると、セールスの電話がかかってきた。迷惑電話さながらの内容に、ハニーは説教で応酬すると、相手は卑語で罵倒し電話を切ってしまった。収まらない彼女は、教育的指導を施してやろうと、無人の島へ誘き出す手荒な復讐計画を立てるが。
ヒロインのハニーに岡惚れ状態で、ほとんどモンスターと化した魚屋の店主が、彼女めがけて猪突猛進していくサスペンスも強烈なのだが、本作の素晴らしさは、いくつものエピソードの糸が、複雑に絡み合いながらも、やがて出会いや衝突のドラマを織り成し、最後には再び心地よく収束していく快感に尽きると思う。もはやミステリとはいえない気もするが、おなじみのハイアセン節はますます快調。今回も笑いに満ちた人生賛歌が読者の心を癒してくれます。
[ミステリマガジン2009年10月号]

迷惑なんだけど? (文春文庫)

迷惑なんだけど? (文春文庫)