斧/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

ドナルド・E・ウェストレイクの『斧』は、帯のキャプションにもあるように、「シンプル・プラン」や「ポップ1280」と肩を並べるべき犯罪小説であるが、失業した主人公が再就職のライバルを蹴落とすために殺人を重ねていくというアイデアが、現代的であると同時に、いかにもウェストレイクらしい機知に富んでいる。
しかし、この物語を笑える読者は、相当にシニカルな人物に違いない。それほど、ウェストレイクの語り口はノワール風のシリアスさに満ちている。ストレートな中にも、作者の職人芸を堪能させてくれる紆余曲折もあって、読み応えのある犯罪小説に仕上がっており、巨匠の技を感じさせてくれる。
本の雑誌2001年6月号]

斧 (文春文庫)

斧 (文春文庫)