暴力の教義/ボストン・テラン(新潮文庫)

凄絶なる復讐物語『神は銃弾』を引っさげてのボストン・テランのデビューは衝撃的だった。暴力を描くのではなく、作品が暴力そのものだったからだ。しかし、バイオレンスへの徹底したこだわりに変化の兆しが見てとれたのが、障害を負うヒロインの成長を主題にした前作だった。そして、クリスチャン・ベール主演で映画化とも伝えられる最新作『暴力の教義』(新潮文庫)では、またも新たな一面を覗かせてくれる。
時は一九一○年、革命前夜のメキシコが舞台。この機に乗じひと儲けを企む犯罪者のローボーンは、武器満載のトラックを強奪するも失敗、隣国情勢を内偵する合衆国捜査局の囮にされてしまう。免責特権と引換えに若き捜査官を乗せトラックで国境を越えるが、実は同乗のルルドは幼い頃に生き別れた息子だった。
父と子の物語は数多あるが、作者は自身にしかなしえない方法で父子の絆を描いてみせる。初期の暴力衝動に満ちた文体はそのままに、血と硝煙が渦巻く中、愛憎相半ばする親子の葛藤のドラマが鮮やかに浮かび上がってくる。ノワール文学の新たな地平を切り開いた、テランの意欲作である。
[波2012年9月号]

暴力の教義 (新潮文庫)

暴力の教義 (新潮文庫)